近日中に、ベルガモのドニゼッティ音楽祭や、
英国のロングボロー・フェスティバルがストリーミング配信をするということで、
今秋は記事にする話題が見つからずにいたのですが、以下のコンクールを聴いていたら、
なんと最初に歌ったDashuai Chen という中国人テノールの声の素晴らしさに衝撃を受けました。
Queen Sonja International Music Competition – Semifinals
34:50~
デュパルクの歌曲が本当に素晴らい分、
最後に歌う愛の妙薬のアリアが、イタリア語の発音の癖の多さに萎えてしまう部分があって残念ではあったのですが、声はリリカルな輝きと柔軟さに加えて芯の強さを併せ持っており、
スウェーデンの伝説的テノール歌手、ユッシ・ビョルリング(Jussi Björling)を思わせる声をしています。
因みに、このコンクールの他の出場者には、それなりに上手い人が他にもいるにはいますので、
興味のある方は聴いてみてください。
ただ、この人がズバ抜けて上手いことは確かです。
どうもジュリアード音楽院で学んでいたようで、フランス物が得意みたいですね。
マスネ マノン Ah! fuyez, douce image
フレミングのマスタークラスの映像ですが、フレミングより明らかに上手いです(笑)
内容も発音とかディナーミクとかで、それなりの知識があれば誰でも指摘できるようなことしか指導できてない感じがします。
Jussi Björling
ビョルリングの声と比較してみましても、
録音状況が全然違うというのがどうしてもありますが、高音の入りの音のインパクトは強いのに、力みが感じられないところや、響いているポイントはとても似ているように聴こえます。
中国人の優れたテノールと言えば、過去にも紹介したYijie Shiという人がいますが、
彼も若い時はイタリア語の発音に癖がかなりあって、特に”c”が”k”のように硬くなってしまうのは耳につきました。
Dashuai Chenの場合はどこにイタリア物を歌う時の課題があるでしょうか?
ドニゼッティ ランメルモールのルチア Tombe degli avi miei… Fra poco a me ricovero
私が直ぐに分かる問題は3点
<1点目>
「l」と「r」の歌い訳が不十分
どの「r」をどれ位巻くべきかという部分が詰められていないので、
バランスが悪く聴こえる
<2点目>
「n」の処理が下手
出だしの
「Tombe degli avi miei l’ultimo abanzo」の「abanzo」がまず発音できていない。
特に顕著なのは2:20の「tu ridi e sulti accanto」という歌詞
これは問題点の3点目とも共通する単語ですが「accanto」が言えていません。
<3点目>
促音になる言葉のリズムやアクセントのバランスが悪い
上記にも書いた通り「accanto」の「ca」を強くし過ぎてしまって「n」も引っ込んでいるので、
言葉のリズムを出すのに大事な促音が綺麗に出ません。
こういう部分がちょっとずつ積み重なって、アリアはまだ良いのですが、レチタティーヴォがレチタティーヴォに聴こえない状況になってしまっています。
これはイタリア人の歌手と比較すれば明確です。
Giuseppe Filianoti
私自身も苦労したので良くわかりますが、
高低・強弱アクセントの言語を日常的に使っていると、
どうしてもアクセントを強く発音しようとしてしまう癖が付いてしまうので、
そこを長短アクセントの言語に合わせて、強くではなく長く母音を歌うということを心掛けないとレチタティーヴォは特に不自然になってしまう。
今後彼がこういった課題を攻略することができれば、世界的にもトップクラスのテノールとして活躍する可能性は十分あるのではないかと思います。
それくらい、持っている声はズバ抜けた才能を感じる歌手ではないかと思うので、今後の動向には注目したいと思います。
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